Price (後編)



何か飲む?


ベッドルームに戻ると冷蔵庫の中を覗き込んだ高杉が訊いた
座ろうか、と促して来たので、並んでベッドに腰掛けて互いのペットボトルを開けた



『どうしてこの仕事を始めたの?』


そう唐突に訊いて来た後、暫く返答に困っていると

『そうか、いろいろあるもんな』

勝手に話を終わらせられてしまった


どうしてこのような仕事をする女が、可愛そうな女なのだと決め付けられてしまうのだろう
ココの面接担当の男に言われた言葉が過ぎる



『君がここに来た理由は訊かないけれど、やむを得ない状況で始める女のコも多いし・・・
借金とか、子供を食べさせる為とかね』

『目標額を得る事が出来たら、いつまでもこの世界に居ないで・・・』



どの業界に居ても、堂々と胸を張って己の仕事に誇りを持てばいいんじゃないの?
それとも、そもそもこの仕事はそんなに卑しい仕事なのだろうか


彼女は決して借金に苦しんでいる訳でも、身体を張って食べさせて行かなければいけない
子供が居る訳でもない
一人、人並みに食べて少々の己の愉しみを満たすだけの生活は送れている

それなら、どうしてこんな仕事をする必要があるの?
そう問われると明確な返答が彼女の中に無かったので
お金に困って行き着く所まで来た不幸な女、そう思わせておけばいい

そう思うことにしたけれど


目前の男、高杉にそう思われるのは少し寂しかった




高杉は彼女を優しく押し倒すと、キスをしても良いか尋ねて来た

ああ、そう言えば昔
身体を売る女はセックスをしてもキスだけはしないと聞いたことがあったっけ
それは本当なのだろうか

返事の代わりに、彼の唇に唇を重ねた
男は暫く重なり合った温もりを味わうと、上唇に吸い付いた

その時彼女の唇が震えていることに男が気付いた



『震えてるの?
本当に初めてなの?』



男の口づけは優しかった。
しかし、愛する男と唇を重ね合わせた時のような幸福感や高揚感はない
そしてほんの僅かな嫌悪感を感じた

きっとその嫌悪感は、慣れ親しんだ男の匂いとは違うからだ、
そう思った



そんな女の唇を少しばかり堪能した後、その唇は胸元に降りて行き
そして彼の指が彼女の下半身の一番敏感な所を触れた

ビクッ、と身体が小さく跳ねた


『ヒカルちゃんは感じ易いんだね』


触られている所がぬるぬるとしてる
アタシ、気持ちいいの?

何の恋愛感情を持たない男に身体を弄られても、身体は反応するもんなんだ?



男はそこに口を付けた
唇を使って舐め回し、舌先で一番敏感な部分に触れた


んっ、


押し殺しても声が漏れる


はぁっ、
んああっ、



『イクまで舐めて上げるよ』


そう言うと両腿の付け根に顔を埋めぴちゃっ、ぴちゃっと音を立て舌を動かし続ける
ざらざらとした舌が這い廻る度、虜になってしまいそうな快楽の波に襲われ
腰をくねらせて抵抗した


駄目です、
アタシが気持ち良くなっちゃお仕事じゃなくなっちゃいます、

いいんだよ、
ヒカルちゃんが気持ち良さそうにしているのを見れるのが嬉しいんだ


唇が軟体動物のように、ヌメヌメヌメヌメと這い回る


んんん、
んぁぁぁぁぁ

んあぁぁぁぁ・・・


彼女の声色の変化で一番気持ちイイだろう舌使いを察し男は
飽きることなくそれを繰り返した



イヤ、
やめてください、


あっ、

あああああああっ・・・・・・・・・



彼女が絶頂に達したことを知ると
男はゆっくりとソコから唇を離した


普段のセックスなら、暫くベッドに身体を預け余韻に浸りたい
でも、大きく呼吸して息の乱れを整えると上体を起こした
既に彼自身は勃起して、その先からはテラテラと光る液体が滲んでいる

彼女はそこに口を付け、その液体を舌先ですくい取った
そして舌先を尖らせ、先のほうだけをチロチロと舐める
滲んだ液体を清めたばかりだというのにその先端からはまた新たな液体が溢れ出す


男は堪らず両手で彼女の頭を掴むと、強引に口の中にそれを押し込んだ
口いっぱいにそのモノが入り込んで来る
やはり慣れ親しんだ匂いではなかったが、キスをした時感じた少しの嫌悪感、それはなかった


彼のものを咥え込んだ口は暫く動こうとせず
代わりにべっとりと張り付いた舌と上顎を使って吸った


んふっ
んふっ、

それだけで彼自身の固さが増して行くのが分かる


ヒカルちゃん、
コレが好き?


彼の問いかけに声を発せられない彼女は、ソレを咥えたままコクリと頷いた


一度、ぬるりと口から抜くと
唾液でテラテラ光るそれをまた、ぬるり、と咥え込んだ

またぬるり、と口から抜く
また咥え込む
舌をべっとりと張り付かせながら

その動きが堪らないらしく、掴んだ頭を上下して彼女を動かし始めた
喉の奥に突き刺さり、んぐっと声を上げたが構わず男は頭を動かし続けた


暫くその動きが続けられた
気が付くと掴んでいた男の手は離れ、彼女の口の動きだけに身を任せていた

上目使いで男を盗み見ると
男は彼女の奉仕を恍惚とした目で見降ろしていた


『ヒカルちゃん、綺麗だ・・・』

そう言って自分から咥えられたモノを抜くと、彼女を抱きしめた


『触って、

僕もヒカルちゃんのアソコを触りたい』


抱き合って見つめ合ったまま、互いの局所に触れ合った
唾液まみれだった男のソレは、彼女の掌でぬるぬると擦り上げられる

そして男の指で、また彼女のアソコはぬめり始めた


ああっ!


中指が彼女の中に滑り込んで来た


『気持ちいいの?』

『あっ、ああっ、気持ちいイイ』


更に男はもう一本指を挿入すると、小刻みに指先を動かした
気が遠くなりそうなその快楽に、思わず自分の奉仕が疎かになってしまいそうで
握った指先に力を込め、はっとする


『痛いですか?』

『すごくいいよ、ああ、やめないで』


うっすら目を開けると、男も快楽に悶えながら彼女が喘ぐ様を見つめていた
半開きにされた唇に、吸い込まれるように唇を重ねる

それを待ち望んでいたかのように男は彼女の唇を吸った


んふっ、
んんっ、

んぁっ

んんんんっ、


重なり合った唇から、二人の声にならない声が漏れる
互いの指の動きは激しさを増して行った


『ヒカルちゃん、イッて』


もう彼も射精の寸前なのだろう
彼女の指の中で、彼自身が何度もヒクヒクと痙攣する


『高杉さんもイッて、』


そう言って力強く擦り上げると
男が絞り出すような声を上げた


ああ、出すよ、
出すよ、


そう呻いた後



好きだ、

ああ、ヒカルちゃん好きだ、


ああっ、出る、あああっ・・・・



彼女の手の中で果てた
生暖かい体液が彼女のお腹に迸る

それを指でなぞると
愛おしい男がアタシの中で果ててしまった時得られる幸福感

それと同じものを得た気がした



『出たね』
『出ちゃったね』


二人はそう言って吹き出すと

導かれるように、無心に抱き合った



アタシがココで欲しかったもの、

見ず知らずのオトコと分かち合いたかったモノを
ようやく得ることが出来た



そんな気がした




**

事務所に戻ると、先日面接をしてくれた男が出迎えてくれた

労いの言葉を掛けると一旦奥に行き、
暫くすると彼女の元へ戻って来た
そして数枚の紙幣と一枚の領収書を彼女の目の前に置いた


『ここに、サインすればいいんですか?』

『そう』



『あの、コレ・・・』

『これは、今日の君の報酬だよ』


それらに触れることが出来ず、戸惑っていると



『自分の為に、使いなさい』


男はそう言った





事務所を後にして、煙草に火を点けた

深く、吸い込んで煙を吐き出した



駅に向かい、繁華街を通り
歩道橋を登り終えると、その上から幹線道路を見下ろした

そして
彼女の手から、数枚の紙幣が風に舞った





セックスは商品じゃない。



そう呟くと、彼女は歩道橋を後にした




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