激情と欲情の果てに


人間は犬や猫と違って、「発情期」と言うものは存在しない

逆のことを言えば、動物はある一定の時期にサカリがつくが
人間は一年中サカっている、そんな生き物なのだ、


そんなことを誰かが言っていたが
人間も、女に限って「発情期」は存在すると彼女は思う
彼女が決まって疼き出すその時は
それは一月に一度、来るべきものが訪れた直後だ



彼女には
恋人とは呼べる関係ではないが、月に1、2度逢瀬を重ねる男がいる

二人の間には、面倒な恋愛感情や将来の約束などは存在しない
たまにメールで連絡を取り合い、会社帰りに食事をして身体を重ねる
そんな関係が今の彼女には丁度良かった


今月の「発情期」を迎えて子宮の疼きを感じているその時
タイミングよく、『彼』から食事の誘いのメールが来た

「OK、
あたし、今日は凄くセックスがしたい」

単刀直入な返事を返し、7時に新宿で会う約束を取り付けた



7時にいつもの店に行くと
彼は既に到着していてビールを飲んでいた
彼女も隣に座りコートを脱いで、飲み物を頼む

オーダーしたGUINNESSの黒ビールを口にしながら、互いの近況などを話し合う
そして横目で彼のことを盗み見る


長身のその身体を纏っているのは
紺色の上着にブルーグレーのシャツ、明るいグリーンのネクタイ
そしてアリュール・オムのラストノート


紺のスーツを着ているが、彼の男としての貫禄は
決して若輩なリクルートの風貌には見せない

大手デザイン会社に勤め、いくつもの企画のチーフを務める仕事の出来るオトコ
36歳、既婚
男として、イチバン脂の乗っている頃かもしれない


これから、この男に抱かれるのだ―

彼女の頭は会話の内容じゃないところでいっぱいになっていた
彼もまた、そうなのだろうか



「そろそろ、行く?」

切り出したのは彼のほうだった
彼女は小さく頷き、彼の腕に腕を絡ませ店を出る
第三者にこんなあたしたちは、どのような関係に映っているだろう―
そんなことをふと思った


部屋に入ると、コートを脱ぐ間もなく濃厚なキスを交わす
彼の手は下着の中に滑り込み、ふくよかな彼女のバストを弄っていた


「ちょっと待って…」
「凄くセックスがしたいんだろ?」

「そうだけど…ねぇ、シャワー浴びたい、」
「駄目」
「ねぇ、お願い…」


そんな願いも聞き入れられず、ベッドに押し倒される
スカートを捲くり上げられ、ストッキングと下着を降ろされて
恥ずかしい場所に口をつけられた
もう既にその場所には、何の抵抗もなく指も入る


舌が、そのものに意思を持った生き物のように這い廻り
それと同時に、挿入された2本の指が小刻みに動く

5分も経たないうちに、彼女はシーツを掴み一度目の絶頂を迎えた
子宮が激しく痙攣している

それは決して満足した証ではなく
身体中でもっと、もっと、と叫び声を上げているのである
やっぱり
あたし今、サカってる―



ぬぷっ、


以心伝心でそれが伝わっているかのように
彼が入って来た
奥まで突き刺さると、息が止まるほどの快楽が走る

出したり、入れたりするだけの行為なのに
どうしてこんなに気持ちいいのだろう
下唇を噛みながら、彼女はその快楽の波に耐え続けた


やがて、2度目の絶頂が訪れる

しかし彼女はそんな素振りを見せないように
彼の動きに合わせ、腰を動かし続けていた


世の中には、「イッたフリをする」女性が多いと言う
彼女はむしろ、その逆だった
なぜなら、どちらか一方が先に絶頂を迎えてしまうと、暫く行為を中断せねばならない
それを彼女は相手に申し訳なく思う

でも、それは正直ツライ
オトコも射精した直後は暫く触られたくないと思う、そんなようなものだ


しかし、彼にはそんな嘘など通用しなかった
ゆっくり彼自身を抜くと


「えっ、まだイッてないよ?」
「ウソウソ、今イッた」

「何で分かるの?」
「だって、ココが凄くピクピク痙攣してる」


絶頂を迎えた時の痙攣ばかりは、自分の意思で止められない

女性のメカニズムを知り尽くしている彼を改めて愛しく思う
若い男のコではこうはいかないだろう


「舐めて」

彼が仰向けに横たわった
彼女は彼の下半身に覆い被さり、彼のモノを口に含む
深く咥え、唾液を絡ませながらゆっくりと抜き差しをして
舌を一緒に這わす

上目遣いで彼を盗み見ると、苦痛に耐えているような表情(カオ)をしている

彼も、あたしが感じている位、気持ち良いのだろうか
どうしたら、もっともっと気持ち良くしてあげられるだろうか

その先端から溢れ出る液体を味わいながら、激しく吸いつき舐め上げると
それは一層硬く反り返り、唾液にまみれてぬらぬらと光った


このまま果ててくれていい
あたしのこんな拙い奉仕で果ててくれるなら―、



そんな彼女の思いもそこで打ち破られることになる

「四つん這いになれ」

男の奴隷であるかのごとく命令をされ
彼女は渋々、彼のモノを口から離し
彼に向かってお尻を突き出した

それを両手で荒々しく掴まれたかと思うと
後ろから激しい衝撃が走る


ああっ、

悲鳴のような叫び声を上げた


子宮口に彼のモノが当たる度、電流が流れる様な快楽が駆け巡る

コレが欲しかった、
コレが欲しかったの、と病人のうわ言のように繰り返し
彼女自身が激しく腰を振る

あたし、完全にサカリの付いた雌だ


彼の荒々しい仕打ちはますます酷くなる



ヤダ、


イヤ、

イヤ、

お願い、もっと優しくして、


こんなことされたら、もう…、


容赦なく彼は彼女を突き立て、あえなく彼女は3度目の絶頂を迎える

その余韻に浸る間もなく
彼は彼女を仰向けぬ寝かせると、また彼自身を挿入した
もう彼女はぐったりしたまま、されるがままだ

眼下に煌く夜景が広がる、その狭く静かな部屋には
男の息遣いと、壊れた玩具のように止まることのない女の鳴き声だけが響き渡っている


彼の汗が、彼女の頬に零れ落ち
それが頬を伝い流れて行った
それは女が切ない悲鳴を上げながら、泣いているようでもあった



彼が苦しそうな声を絞り出して言った


「もうダメ、イッていい?」

「うん、いいよ、いっぱい出して、」


彼は彼女の名前を2度呟くとああっと叫び
お腹の上で射精した

それは勢い余って彼女の首筋、口元まで飛び散った
彼女はその生暖かい液体の感触と荒々しい呼吸を耳元で感じ
満足な溜息を零した




「まだイケるでしょ?」

「えっ?」

全身の力が抜け、呆けたような顔をしながら彼の顔を見ると
悪戯っ子が、イケナイ遊びを始める時のような挑戦的な眼をしている
彼こそ、今ぐったりとしているはずではないのだろうか?



「もう駄目よ、」

「そんなことないよ、見ててごらん、」


2本の指を挿入し、ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ掻き回す
その指は的確に、ヤバいスポットを突いて来る
彼の言葉通りにソコは予想を逸脱して反応する

あたしの身体は、どこまで貧欲で卑しいのか―



ああっ、

そんなトコ刺激したら…


止めて、

止めて、

イヤ、


1分もしないうちに、びしゃびしゃと透明な液体が激しくほとばしり
彼の手や、シーツやお腹までも濡らす

そして、
その羞恥に耐え切れなくなった彼女は涙を流してお願い止めてと懇願しながら
やはり、ものの1分程で絶頂を迎えた

彼女は四肢を投げ出しぐったりと
死んだように動けなくなった


その華奢な身体は
自分のものだか彼のものだか分からない
白く透明な液体にまみれ

まるで複数の男に無理矢理陵辱された後のような、無残な光景にも見えた




暫くして、彼がコーヒーを入れ
「立てる?」と言って身体を起こしてくれた

足が震えている
彼に支えられ、ガウンを羽織りソファーまで移動する


コーヒーを飲みながら彼が訊いた

「満足した?」

「もう充分、神になった気分
悟りを切り開いた境地よ」


彼は笑って

「また欲情したら、いつでも呼んで」
そう言って彼女を優しく抱きしめ、唇を重ね合わせてきた
さっきまでの激しさが嘘みたいに


彼女は彼の胸に凭れ掛かりながら
軽い眩暈を覚え、瞼を閉じた

この男を独占する権利を
彼女は初めて欲しいと思った


激情と欲情の果てに―




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