"彼"の講義


※この物語に限りノンフィクション、実話です。(笑)


***

ただ、私に解ることと言えば
相対性理論というのは時空をも超える、無限の可能性を秘めているということだけだ。

そしてこの理論は日本に入って来た頃、誰もが間違えた性的な捉え方をして
競って若者はその論文を読んだらしい。


しかし書き連ねられた方程式を眺めた所で、私には何のことだかサッパリだ。


***


"彼"はとても不思議な匂いがする男だった。


そもそも、彼女は彼のことを何も知らない。
知っているのは、180cm近くもある細身で長身の男だということと
彼自身が自称、「数学者」だと言っていることくらいだ。



彼との出会いは、表参道の某喫茶店だった。


あの日は真夏を思わせる気温と強い日差しが降り注ぐ日で
出先から社に戻る途中、喉がカラカラで何か飲み物を飲もう、そう思っていた矢先だった。

予報では雨が降るなどということは一言も言っていなかったのに―
急に辺りが暗くなったかと思うと突然、凄い勢いの土砂降りになった。
彼女は慌てて近くの店の軒先に飛び込んだ。

飛び込んだ場所がカフェの軒下であることに気付くと、迷わず扉を開けた。
何か甘く、冷たい飲み物が飲みたい。


平日の日中だというのに店内は若い客で溢れ返っていて
ざっと見回しても空いているテーブルは見当たらない。表参道という場所柄のせいだろう。
かろうじてカウンターが1席空いていることを確認すると、彼女は真っ直ぐそこに向かった。
着席すると鞄からハンカチを取り出し、濡れた髪と額とジャケットと、書類袋の水滴を拭った。

隣に同じく、ハンカチでスコールの災痕を拭っている男がいた。
可笑しなことに彼は濡れた髪や水滴の付いた細い銀縁の眼鏡のことなど気にもしない様子で
大事そうに一冊の分厚い書籍を丁寧に拭い終えると、煙草を取り出し火を点し、満足そうに煙をくゆらせた。


彼女は喉の渇きも忘れ、彼に見入った。
決して人目を引くような顔立ちや容姿をしている訳ではない。
長身だ、ということを除いては。

しかし"彼"は彼女の視線に金縛りという魔法を掛けたかのように、釘付けにさせてしまった。

その金縛りを解いたのもまた、彼だった。



「コレ、やはり気になりますよね?」



彼の一声で我に返り、改めて彼が手に取った書籍を見た。相対性理論がどうのこうというタイトルだった。

そして
「僕の専攻は数学だから、実は専門外なのだけど―、」
そういう前置きを付けて、彼は勝手に話し始めたのだ。

彼女は更に彼に見入った。
不可解に思うのは、自称数学者の彼が物理を語ることでもなく、また初対面の相手に突然論じ始める
ことでもなく、そんな彼に見入って子宮の疼きを感じる彼女自身の身体の反応のことだった。



それからというもの、彼女はたまに彼の部屋に訪れるようになった。


彼もまた不思議な男で、あの日、また会ってその話を聞きたいと言うと快く了解し
同じ場所で待ち合わせた翌週、表参道から徒歩15分ほどにある彼の部屋に案内してくれたのだ。

電話番号やメールアドレス、
そもそも、年や名前、職業すら、互いに何ひとつ知らないと言うのに…

彼女は度々彼の部屋で彼の講義に聴き入り、彼に見入るだけの日が続いた。
なぜかそれだけで彼女の性的欲求さえも満足させられるのだ。
彼の講義する様は蕩ける寸前の砂糖菓子のように甘く性的で、痺れるように心地よい、そう感じていた。



彼女は中堅の出版社に勤め、出版物の校正をする仕事に就いていた。
SEやプログラマーとは仕事内容は大きく異なるが、一日中PCのモニターを睨み続け
半端でない仕事量と残業を抱え身体を壊す者が後を絶たないという点は、それらの職種と同様だった。

その日も社内で午後11時を迎え、甘ったるいインスタントコーヒーごときでは癒されることのない
疲れ切った四肢を椅子の上から投げ出した時、ふと彼のことを思った。


"彼の講義が聴きたい"

彼の講義が聴きたくなるのは、決まってこんな日だった。


PCの電源を落とし、帰り支度を済ませたのは午後11時半を廻っていた。
これから表参道の彼の部屋に寄れば帰りの電車はない。
そもそも彼が不在であるという可能性だって多いにある訳だ。

しかし疲れた身体が甘いものを欲しがるように今すぐにでも彼が欲しくて欲しくて
勝手にココロと身体は帰り道とは間逆の、彼の部屋に向かっていた。



彼の部屋に到着したのは午前0時を過ぎていた。
インターフォンを2度押してみたが何の反応もない。
留守なのだと諦めようとした時、鍵を回す音が聞こえた。

ドアが30cmばかり開き、パジャマ姿の眠たそうな顔をした彼が顔を覗かせた。
僅かに眉間に皺を寄せ、眼を細める。
それは決して彼女の訪問を疎ましく思った訳ではない。
彼は極度の近視で裸眼では瞬時に相手を確認出来ないのだ。
その証拠に、今日はいつもの細い銀縁の眼鏡を掛けていない。


ああ、今まで眠っていたのだ、


眼鏡を外した彼はいつもより10歳も下の男の子のように童顔に見せた。
眼鏡を掛けている者がたまにそれを外した素顔は、こんな風に見えるものだ。


「君だと思った」

そう言うと近視の少年、いや実際にはいい年の近視の数学者は
深夜の訪問者を扉の中に案内した。


「講義を、聴きにきました」

そう言って彼の瞳に眼差しを絡めると、その場で彼のパジャマのボタンに手を掛けた。
彼は抗うことも驚くこともなく、何かにとり憑かれたような眼をして己に向かう彼女の動向の始終を眺めた。
それは長身の彼から見れば、「見下ろして」いるようでもある。


高鳴る胸の鼓動と指先の震えが邪魔をして、上手くボタンが外せない。
もどかしく最後のボタンを外し終え、パジャマの上着が玄関にふわりと落ちた時
彼女は彼が自分よりも長身過ぎて、自分から唇を重ねることも
首筋に舌を這わすことも出来ないことに気が付いた。


彼は少し屈むと、彼女の髪を掻き上げ耳元に口づけるような姿勢でこう囁いた。
それは"音"にはならず、吐息だけで―


「やはり僕らは、初めから間違った理論の解釈をしているらしいな」


それだけで彼女の脳みそはショートして真っ白になってしまった。
つま先立ちになり彼の首筋に両腕を廻すと、その場に雪崩れ込むように二人は倒れ、折り重なった。

彼女は彼の首筋や胸元に、柔らかな唇を這わせた。
ほんの少し吸っただけで、その肌は虫に刺されたように赤く染まってしまうので
明日はキスマークだらけになっているかもしれない、そんなことを思いながら。


存分に舌を這わせ、彼女の唇が充分に満足したのち
首元からゆっくり顔を上げ、再度彼と視線を絡ませながら―
彼女は体勢を変えず彼の下着を降ろし、自分の下着をずらした。

そのままゆっくりと彼の腰の上に自分の腰を沈ませると
彼女の身体がぬるり、と彼自身を飲み込むのが分かった。


はぁぁっ、


彼の、息の根が止まるような声が漏れた。


挿入する為の前戯など何も要らない。
研ぎ澄まされた聴覚と視覚、そして敏感な局所の感覚だけ持ち合わせていれば充分だった。

そして、二人は静止画のように動かなくなった。
彼自身は激しく脈打ち続け、彼女の内部は劈く(つんざく)ような痺れにビクビクと痙攣する。
その感覚を局部だけで味わいながら、二人の身体は暫くの間硬直したままだ。

彼女は暫くの間その快楽に夢中になっていたかと思うと、ゆっくりと腰を上下に動かし始めた。


うっ、

うぅっ、、


彼女が動く度、彼は堪え切れず小さく息を漏らした。
その息遣いを聴いて彼女は激しい高揚感を覚え、一心不乱に動き出す。



腰を深く沈める度に、子宮口に疼くような痺れを感じる。
その衝撃に局所は一層ぬめりを増し、動くたびにびちゃ、びちゃ、びちゃと音を立てた。
その快楽の虜になり小さな悲鳴を上げながらサカっている彼女の姿は
玄関に立てかけられた姿見に、より官能的に映し出された。


彼の漏らす吐息が序々に、苦痛に堪えるような息遣いに変わってきた。
彼女の聴覚はそれを逃すことなく捕らえると、薄く眼を開け彼の顔を盗み見た。

彼はひたすらこの快楽と言う名の苦痛が己の身から早く去って欲しいと願うかのように…
下唇を噛み息を殺し、固く眼を閉じていた。


彼女はそんな彼の様が許し難く、腰を動かし続けたまま上体を倒し
彼の唇に己の唇を押し付けて舌先を挿入した。
難なく唇に込められていた力が抜け、堪えるような息遣いがはっきりとした声色となった。
それと同時に、子宮口で感じる痺れにも似た快楽がより一層激しくなった。

それは彼自身が最大限に硬くそそり勃ったせいだろう
彼女は瞬時に彼が射精するのだと感じた。


***


誰かがドアを叩く音で目が覚めた。
それはドアに取り付けたウエルカムプレートが風に揺れ、ドアを叩く音だった。


―夢?


何て生々しくて、不可解な夢だろう。
実際には夢の中で、"彼"と彼女は何度も何度も絶頂を向かえていた。
どうして突然こんな猥褻(わいせつ)な夢を見たのか。

そしてなぜ、『相対性理論』などという私が生きていくにおそらく一生全く無関係なコトを
夢の中の彼は論じまくっていたのか。


てか、

何故彼が夢の中で数学者になっていたのか。
そもそも物理を語るなら、端から数学者ではなく物理学者でも良かった筈だ。

全く以て分からない。


ただ、かつて"彼"のことを眺め、見入っていた時
何となく、数学の先生みたいだなっ☆ と思ったことは否定しない。(笑)
そして眼鏡を外した素顔が、2割り増しでオトコマエに見えることはわたしが保証する。


そして
和○せんぱいwwwwww

勝手に夢の中に登場させ、猥褻なことをしてしまってゴメンナサイ(>_<)
心から、お詫び申し上げます。




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